その薬飲むべきか、否か?

(1)

 

週刊誌広告で「この薬は飲むな」とか「この手術は受けるな」などの見出しをよく見かけます。

 
真に受ける患者さんがおられたらどうしよう、と戦々恐々でしたが幸いなことに当院の患者さんではそういう方はおられませんでした。
場所柄知的水準の高い患者さんが多いという理由もあると思います。

ですが、服薬中の薬に対して少しでも不安がある方はどうぞ遠慮なくお尋ねください。


(2016年6月6日)

 

(2)

 

実は週刊誌の記事は読んでいないのですが確かに、飲まなくてもいい薬や飲まない方がいい薬というのもあります。

 

1)効果がない薬

 

血圧を下げてくれない降圧剤や血糖値を下げてくれない糖尿病薬などがこれにあたります。

降圧剤や糖尿病薬は効果が数字にはっきり表れるので判断は比較的簡単です。
医者と患者さんが一つのデータを一緒に見て「この薬は効いているのかどうか」判断できるわけです。
高いくせに効果がない薬や切れ味の悪い薬を使い続けると医者の方が見捨てられてしまいます。

そういう意味で「効果がない薬」を医者は出しません。
少なくとも当院でお渡ししている薬には「効果がない薬」はないと、私は信じています。

 

2)効果が健康に結びつかない薬

 

勘違いされている方が多いのですが、降圧剤を飲むのは血圧を下げるためではありません。
糖尿病の薬もそう、コレステロールの薬もそうです。
血糖値を下げたりコレステロール値を下げるのが目的ではありません。

高血圧や高血糖状態が引き起こす脳卒中や心臓病を予防するためです。

もしあなたが飲んでいる薬が血圧は下げるけれども脳卒中などの発症率を減らさないとすれば、それはまさしく「飲まなくていい薬」です。
ただし「血圧を下げるかどうか」に比べると「脳卒中を予防するかどうか」判断するのは結構難しいです。
専門家集団による大規模で長期間の追跡調査が必要になります。

新薬発売後十年近く経って「実は効果がなかった!」という大規模研究の結果が報告されて騒がれることが時々ありますが、最近はあまり聞きません。
週刊誌で扱われているのはこの領域の薬ではないと思います。


(2016年6月8日)

 

3)効果が感じられない薬

 

降圧剤や糖尿病薬は自覚症状のない病的状態を治す薬です。

本来薬とは痛みを抑えたり熱を下げたり、具体的に困っている症状を治すものでした。
しかし時代が変遷して、実り豊かな人生を送るためには自覚症状の出ないうちに病的状態を改善させた方がいい、という認識が一般的になりました。
降圧剤などの、自覚症状を改善させるわけではない、いわば特殊な薬の方が健康面では重要になってきたわけです。

ところがこういう時代の変化についていけない人もいます。
いまだに子どもは叩いて躾けるべきだと主張する人もいれば、会社の宴会では女性社員が酌をして回るのが当然だと思っている人もいます。
そういう人に自覚症状がない状態を病気と認めてもらうのは難しそうです。

自覚症状もないのに薬を飲んでもらうことはもっと難しいと思います。
そして困ったことに医者の中にも一部そういう頑迷な人がいて、おそらく今回の週刊誌の記事などはそういう医師に取材した結果ではないかと思ったりします。

さて、健康維持のための主役が新しいタイプの薬に移りつつあるとはいえ、ほとんどの薬が自覚症状を改善するために使われていることに変わりはありません。
そのジャンルの薬の存在意義は「効くか効かないか」にあって、それ以外にはありません。


(2016年6月10日)

 

(4)

 

医者からすると不思議に思える現象は多いのですが、よくあるのがこういうねじれ現象です。

つまり、降圧剤を頑強に拒む人が、特に効果を感じないまま漢方薬を飲み続けていたりするのです。

繰り返しになりますが血圧の薬は今日の血圧を下げるために飲んでいるのではありません。
明日の脳卒中を防ぐために飲んでいるのです。
今、無症状でも明日のために必要な薬です。

ところが漢方薬はそうではありません。
長く飲み続けることによって体質の改善も期待できるとはいえ、いくらなんでも何か月も漫然と飲む意味はありません。
もちろん「冷え性が改善された」「便秘が治った」などの自覚できる効果があれば別です。
しかし漢方薬を処方されている人に「これは何の症状に対して飲んでいるんですか?」と尋ねると、少なからずの人からこの答えを聞くことになります。

「よく分からないけれど出されたから飲んでいる」

胃腸薬やビタミン剤にも同じような傾向が見られます。
たとえばビオフェルミンはとてもいい薬ですが、せっかくのいい薬がそれこそ全く意味のない状況で使われていることが多いです。

薬には「自覚症状がなくても飲まなくてはならない薬」と「自覚症状がないなら飲む必要のない薬」の二種類があることをはっきり意識した方がいいと思います。


(2016年6月13日)

 

4)副作用のある薬

 

どの薬にも効果と副作用がある、というのは皆さんご存知のことだと思います。

ある程度の副作用を覚悟しつつ使わなくてはならない状況もあれば、「この症状が出たらすぐ服用中止」となる深刻な状況もあります。
まったく逆に、大した効果を期待して処方しているわけではないのでわずかでも副作用が出れば中止するしかない場合もあります。

つまりポイントは薬の副作用そのものにあるのではなく、医師が効果と副作用をどう天秤にかけているか、そしてそれを患者さんに納得してもらっているかどうか、です。
副作用が強いから使わない方がいい薬がある、というものではありません。
結局は医者と患者さんの間のコミュニケーションの問題に言い換えられます。

それを踏まえると、「この薬は副作用が強いから使わない方がいい」と言う医者がいれば、それは私には「患者とコミュニケーションする気なし」と宣言しているように思えるのです。


(2016年6月15日)

 

5)費用対効果

 

消化器系にはそれほど高い薬はありませんが、循環器系や糖尿病系になると処方する側でもびびってしまう高価な薬があります。

特に血をサラサラにする薬にはピンからキリまであってびっくりします。

ピンからキリまである中でどの薬を使うかは医者の裁量範囲です。
ですがその裁量の中にコスト意識がまったく感じられないことが多いのも、事実です。

こういう時高い薬、つまり最新の薬を先に使ってしまうとなかなか安い薬に変更できません。
安い薬に変えたあとで脳卒中が起きれば責められる可能性があるからです。
医者でもそうなのです。
患者さんの立場からすると「この薬なら脳卒中になる可能性を最低限に抑えることができる」と言われれば従わざるをえないのではないでしょうか。


(2016年6月24日)

 

(7)

 

ここで話は変わるのですが、「自分の患者には絶対心筋梗塞はおこさせない」と豪語する循環器の医者がいます。

一見胡散臭いですが、よく聞くと、大変な心構えがあって初めて言える言葉です。

血圧やコレステロール値は通常よりも厳しく基準を定めて、生活習慣の改善や薬によって徹底的に管理します。
それに従えない患者さんとは大喧嘩も辞しません。
そう書くと、「従えない患者が離れていくから質のいい患者ばかりが残るだろう」というやっかみの声も聞こえてきそうです。
それはそうかもしれません。

 

しかし誰かの健康のために喧嘩ができる、この誠意とエネルギーはすごいと思います。
そしてそこまでしないと「自分の患者は心筋梗塞では死なせない」というスタンスは貫けないだろうと思うのです。


(2016年6月27日)

 

(8)

 

もしかすると「喧嘩」というのがキーワードになるかもしれません。

 

今思いついたのですが、あともう一つは「タバコ」。

薬の飲み方や生活習慣の指導を受けている時に「タバコはダメですか?」と尋ねるという手はどうでしょうか?
ご存知の通り喫煙は最先端の薬の効果をも打ち消してしまう最強最悪の毒物です。
「タバコはダメですか?」という質問に対しては「ダメに決まっているでしょう!」という答え以外はありえません。

ところがもしそこで「まあ、ほどほどにしてくださいよ」などと答える医者がいるとすれば、その医者はあなたの健康についてさほど興味はありません。
その医者が、ピンからキリまである中で、もし馬鹿高い方の薬を出しているとすれば、それは「この薬を出しているのはあなたのためではなく私の都合だ」と判断してもいいと思います。
「医者が信用できるか」は、「医者が自分と喧嘩してくれるかどうか」と言い換えられると思います。


(2016年6月29日)

 

(9)

 

自分のために喧嘩までしてくれる医師を見つけるためには「ドクターショッピング」なるものが必要です。

口コミがどんなによくても、所詮は他人の評価です。
自分の訴えを真面目に聞いてくれるのか、自分の症状に真剣に向き合ってくれるのか、自分の不安を丁寧にすくい取ってくれるのか。
こうしたことはやはり直接顔を見てじっくり話をしてみないことには分かりません。

新しく病院に行くのは億劫なものです。
しかし健康に関する不安を抱えて毎日過ごすのは辛い事です。
一度思い切って別の医者にかかってみるのはいい方法だと思います。

 

ただし患者さんの中には別の目的で「ドクターショッピング」を実践されている方がおられます。
つまり「自分の求めている答えを与えてくれる医者」を探している人です。

「どの病院に行っても降圧剤を飲めと言われる。おたくはあまり薬を出さないと聞いたから、よそとは違うことを言ってくれると期待して来た」という方です。

 

(2016年7月4日)

 

(10)

 

すでに何軒も回っているということは、ある意味態度がぶれないということです。
何とかして説得しようとしても「そんな話を聞きに来たわけじゃない」と拒絶されるでしょう。

以前なら「生活習慣を改善して、それでもだめなら薬を飲みましょう」という説明の仕方をしていました。
教科書的な指導法です。
しかしそれが通用するのは当院に長くかかっていて、個人的にもよく分かっている患者さんです。
初めて顔を見る人に、生活習慣が改善できる人なのかどうかも分からないのに「まず生活習慣を改善しましょう」と言うのは無責任だと思うのです。
生活習慣病とは脳や心臓の血管がパンクするリスクを背負っている状態です。
「まず生活習慣を改善しましょう」と言うのは、つまり、改善してくれるかどうかも分からない、改善したからといって血圧が下がるかどうかも分からない、そんな状態で数か月放置するということです。

教科書的には正しいかもしれないけれど、きっとそういう医者はあなたのために喧嘩はしてくれないと思います。


(2016年7月6日)

 

(11)

 

内緒ですが、生活習慣の改善を勧める医者の心の奥底にはこういう考えもほんのちょっとだけあります。

「生活習慣なんてそうそう改善できっこないだろうから、数か月後には薬を飲んでくれるだろう」

患者さんにとっては身をもって薬の必要性が実感できるし、医師にとっては説得の時間と手間が節約できて「数か月のリスク」に目をつぶればWIN-WINと言えないこともありません。

ですが、自分の求めていることしか聞きたくない患者さんの場合は別です。

 

よくあるのがこういうパターンです。

「まずタバコをやめて食事の塩分と脂肪分を減らしましょう」
「仕事の付き合いもあるし、絶対無理」
「タバコだけでもやめられませんか」
「禁煙って考えただけでもストレスで死にそう」
「せめて節煙とか。たとえば朝起き抜けの一本を思いとどまることから始めてみませんか」
「それくらいなら……」

禁煙への第一歩として提案した私の言葉ですが、中にはこう受け取る方がおられます。

「起き抜けの一本を我慢したら薬は要らないと言ってくれた」

その患者さんが欲しかったのは薬でも説明でもなく、医者のお墨付きだけだったのでした。


(2016年7月8日)

 

(12)

 

「ドクターショッピングに行こう!」と言っておいてすぐドクターショッパーの悪口を書いて、相変わらず意地悪なコラムですが、現実はそういうものです。
「求めている答えしか聞きたくない!」くらいのタフさがないと、病院を何軒も回ることなどできないということです。

さらにその一方で病院も医師も専門化が進んでいます。
「うちは呼吸器内科だから腹痛の相談をされても困る」
みたいなことが現実に起き始めています。
実際に消化器内科でもそろそろ「検査専門病院」と「治療専門病院」とに大きく分かれつつあります。

これまでは「胃が痛ければ胃腸科」と比較的単純でしたが、今後はそうではありません。
ただでさえ面倒なドクターショッピングが今後もっとややこしく、難しくなります。

逆に言うと、いいかかりつけ医を見つけるチャンスは今しかないということです。

それについてはまた機会を改めて一緒に考えましょう。


(2016年7月11日)

 

健康講座で教えられたこと<main>便秘外来お詫び

 


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