第21位
トルーマン・カポーティ「冷血」(新潮文庫)
ニュージャーナリズムの原点。
物語を緻密にたどり、同情を排して人物を描写する。
そこに浮かび上がってくる存在の根源的な哀しみ。
叙述のスタンスは「ボヴァリー夫人」に近い。
違いは、亜流を生まなかった「ボヴァリー夫人」に対して、カポーティは特にスポーツドキュメンタリーの分野で多くの亜流を生み出したところでしょうか。
(2015年7月1日)
第22位
ジャン=ポール・サルトル「嘔吐」(人文書院)
プルーストとの決別宣言とも取れるし、マロニエの根っこから実存主義が芽生えてくる瞬間を捉えた哲学的ドキュメンタリーとも取れるし、「キャッチャー・イン・ザ・ライ」みたいなごくつぶしの愚痴小説の原点とも取れるし。
でも一番腑に落ちたのは訳者解説の「冒険小説」という言葉だったりして。
(2015年6月29日)
第23位
ギュスターヴ・フローベール「ボヴァリー夫人」(岩波文庫)
フローベールの作品としては80位の「感情教育」に続くランクイン。
主人公の甘えが鼻について読むのが辛かった前作に比べると、「ボヴァリー夫人」は別人の作品のように冷酷で客観的。
そしてその冷たい文章が帯びさせる登場人物たちの体温。
フローベールも遠くに来たなあ、としみじみ。
(2015年6月26日)
第24位
ルイ=フェルディナン・セリーヌ「夜の果てへの旅」(国書刊行会)
高級化粧品みたいな名前の作家だけど中身はハードボイルド?
だって一人称が「おれ」だもん。
「おれ」が戦争に行ったりアフリカに行ったり医者になったりするけど、何かするたびに暗くどよよんと落ち込むというお話。
(2015年5月29日)
第25位
ジョン・アーヴィング「ガープの世界」(サンリオ文庫)
「ホテル・ニューハンプシャー」に続く2作目のランクイン。
この人の文章には独特のエグみというかぬめりがあって、時々出てくるエログロ描写よりもその感触が読み手の感性を苛む。
語り口は上手い。
軽快なメロディーにずっとスクラッチノイズがかぶさっている古いレコードみたいな感じ。
(2015年5月27日)
「考える人」08年春季号「海外の長篇小説ベスト100」<第26位〜第30位<main>第16位〜第20位