間違いらだけの病院選び〜「お尻の病気」篇
〜お尻の病気は電話では診断できません〜
ネット相談コーナーや口コミサイトが大流行です。
私も外食する時、口コミサイトを参考にして店を決めることがあります。
人気店だと大勢のレビュアーがたくさんの感想を書き込んでいますが、すべての人の評価が一致することはありません。
ある人が最高だと評価した店を、ある人は最悪と切り捨てる……、口コミサイトではよくあることです。
そういう時、私たちはレビュー数の多い人の方を信じたくなります。
お目当てのフランス料理店をチェックしてみると、Aさんは五つ星をつけているのにBさんの採点は星一つです。
よく見ると、Aさんはラーメン屋ばかり20件ほどレビューしているのに対してBさんは全国のフランス料理を何百軒も食べ歩いている。
フランス料理よりもラーメンの方が好きな私でもBさんを信じてしまいます。
しかしこれは飲食店だから成り立つ話です。
第一に、食べ歩いた店の数と評価の真っ当さにはある程度の相関が期待できます。
第二に、仮にその評価が間違っていても命に係わることはありません。
病院に関してはどちらも当てはまりません。
(2015年6月8日)
たとえばよくネット質問室でお尻のトラブルについて相談している方がおられます。
そしてそれに丁寧に答えてくれる親切な人も少なからずいます。
しかしお尻の病気と言っても原因も症状も様々です。
病名が同じでも程度によって治療法は全く異なります。
しかも一生のうちでそう何度もかかるものではありません。
つまりお尻の病気には無数の局面があるにも関わらず、そのうちのほんの一つか二つの事例しか経験したことがない人がアドバイスしているわけです。
「今度神戸に行くのでお勧めの中華料理店を教えて」に対する「3年前に遊びに行った時食べた南京町の店が美味しかったよ」という返事と同じようなものです。
回答者は真面目なのでしょうが、その助言は全く役に立たず、しばしば落とし穴となります。
中には経験豊富な助言者もおられます。
何年もお尻の病気で苦しんでいる人です。
しかし何年も患っているということは治っていないということです。
治療法のアドバイスを求める相手としてはふさわしくないかもしれません。
最近は医師が直接答える相談コーナーというのもあります。
コーナーを担当している医師の勇気には賞賛を送りたいと思います。
しかし勇気で病気の診断はできません。
腹痛の診察には腹部の触診が、咳の診断には胸の聴診が、お尻の病気の治療には肛門診が不可欠です。
(2015年6月10日)
クリニックにはよく病気の相談の電話がかかってきます。
先日も書きましたが私は電話口での診断は一切おこないませんので、いろいろ症状を説明されても返事はただ一つです。
「どうぞ来てください」
ただ、電話でのやり取りの時点で、頭の中である程度の仮想診断はおこなっています。
さあ、その方がクリニックに来られました。
診察室でさらに詳しく問診を取って、肛門診をおこなって診断します。
電話相談の時点で私が予想した診断の正解率はどの位でしょうか?
せいぜい8割です。
問診によってそれが9割になり、肛門診によって確定診断にいたります。
専門でない医師の電話相談だと正解率はせいぜい7割程度ではないでしょうか。
さらに電話よりも情報量が乏しい文面だけの相談であれば6割を大きく割り込むと思います。
5割そこそこの正解率と言うと、もはや経済評論家の景気予測レベルです。
元町商店街の占い師の方がはるかに信用できます。
健康問題で困っている方に私が助言できるのはたった一つ、
「病院に行きましょう」
これだけです。
(2015年6月12日)
〜電話で相談できること、できないこと〜
返事に困る電話相談が他にもあります。
「痔の日帰り手術をしていますか?」
という質問です。
実は「日帰り手術」という名前の手術があるわけではありません。
前回も書きましたが痔にはいろいろな種類があって、それぞれに対してそれぞれの治療法があります。
そのうちの一部、入院しないでおこなえる処置や小手術のことを「日帰り手術」と呼びます。
ですからいろいろな病気に対していろいろな「日帰り手術」があるわけです。
一つの病院でも設備の関係で、できる「日帰り手術」とできない「日帰り手術」が当然あります。
また技術的には可能だけれども医師の信念に基づいて日帰りでおこなわない場合もあります。
大きな専門病院でもすべての「日帰り手術」ができるわけではないのです。
ですから「日帰り手術をしていますか?」という質問にはこう質問を返すことになります。
「どこかの病院でその手術をするように言われたのですか?」
もし相談者がまだどの病院にもかかっていないのであれば、その人が気にすべきなのは「日帰り手術ができるかどうか」ではありません。
とりあえず病院にかかってまず診断してもらうことです。
その結果、日帰り手術どころか全く治療を必要としない場合もあります。
逆に、緊急で直腸切除術が必要になる場合もあります。
また繰り返しになりますが、ある病院では日帰りでおこなう手術を、別の病院では安全性や効果をもっと深く考慮した上で「入院手術」としておこなう場合もあります。
大切なのは「日帰り手術ができるかどうかで肛門科を選ばない」ということです。
(2015年6月15日)
似たような意味で次の質問に答えるのも結構難しいです。
「大腸の検査をしていますか?」
当院では大腸内視鏡検査はおこなっておりません。
したがって「大腸の検査をしていますか?」と尋ねれられれば「内視鏡検査はおこなっていません」とお答えするしかありません。
しかし大腸内視鏡が必要となる場合にもさまざまな状況があります。
自覚症状はないけれど検診の便検査で引っかかった場合、内視鏡検査は大至急必要というわけではありません。
この場合、内視鏡が上手という評判の個人病院、たいていそういう病院は予約が数か月待ちのことが多いですが、そこを予約するのがベストだと思います。
最近下痢気味で時々便に血が混じる、という場合はどうでしょうか。
すぐにでも救急外来を受診した方がいい場合もあればしばらく整腸剤で様子を見てもいい場合があります。
その判断のためにいきなり大病院を受診するのは非効率的です。
直接大病院にかかっても、ほとんどの場合、検査は何日かあとになります。
まず当院を受診しても手間は変わりません。
当院で診察して内視鏡検査が必要であれば大病院を紹介します。
地域医療連携システムなるものがあるので、個人的に大病院を受診して内視鏡を手配してもらうよりは、スピーディーに予約できると思います。
大腸の検査について問い合わせる時には、ぜひ症状も併せてご相談ください。
(2015年6月17日)
もう一つ答えに困る質問があります。
「病院に行きたいがどの病院に行けばいいのか?」
たいていは「うち(松本胃腸科クリニック)に来てください」で済むのですが、問題は遠方の人の場合です。
お尻の病気はほとんどの場合一定期間の通院が必要ですから、基本的に「一番近い病院」が「一番いい病院」です。
近くに「肛門科」の病院がない場合はどうすればいいのでしょうか?
「肛門科」は「消化器外科」の1ジャンルです。
ですからちょっと前までは「外科」に行けば普通に肛門の診察もしてもらえました。
ところが最近は必ずしもそうではありません。
専門の細分化のせいで、すべての外科医が肛門疾患の診察をおこなえるとは限らない時代になってきました。
これには私も困っています。
当院に通院中の方が転居する時、どこに紹介すればいいのかよく分からないのです。
結局病院に電話をして「おたくは肛門疾患を診てくれるのか」と尋ねることになります。
ですから遠方の方の「どの病院に行けばいいのか」という質問には、本当に情けないのですが、こう答えるしかありません。
「申し訳ありませんが、私にも分からないのです……」
(2015年6月19日)