(12)
他の病院でもらった薬について相談を受けることがあります。
「山のように薬をもらっているけれど本当にどれも必要なんでしょうか?」という風に。
検査データなどから「これは必要ですよ」と言ってあげられる薬もあります。
一方医師の匙加減一つという薬もあります。
同じ医師ですから処方に至った胸中のプロセスはよく分かります。
医師のバックボーンや考え方、その医師がその患者をどういう風に見ているか、将来的にどうしたいのか、そこまで透けて見えることもあります。
処方を見ればそこまで分かる、つまり逆に言うとそこまでの関係性をもって医師は薬を出しているわけです。
こちらからアドバイスできるのは「主治医に聞いてみれば?」ということだけです。
ところが多くの方がこう言います。
「怖くて聞けない」
まあ、主治医に聞けないから私に聞いているわけで、その答え自体は驚くべきことではありません。
驚くのは、そう訴える人の多さ、です。
(2015年1月21日)
(13)
「怖くて聞きたいことも聞けない、そんな医師を主治医にするなよ」と突っ込むのは簡単です。
勤務医時代を思い出します。
ナースステーションに入ると何人かの看護師がカルテを挟んで悩んでいます。
理由を聞くと「発熱時の指示がない」と言うのです。
医師が患者を入院させる時には入院指示を出します。
どの検査を何時にして、何時から何時間かけてどの点滴をして、食事は何カロリーのどの硬さで、検査に行く時は車椅子で……、そういう細かな指示の数々です。
その中には「何度以上の発熱の時にはどの薬を使って」などの異常時の指示も含まれるのですが、どうやら先ほど入院してきた患者のカルテに「発熱時の指示」が記入されていなかったようなのです。
指示すべき項目があまりにも多いのでこういう指示漏れは珍しくはありません。
それ自体は問題ではありません。
問題は主治医が怖い場合です。
(2015年1月23日)
(14)
電話機を前に看護師がもじもじしている場合、理由は一つです。
「こんなことを質問して怒られたらどうしよう?」
どんな医者だって受け持ち患者の容体の重大な変化を知らされれば怒ることなく普通に答えます。
どんな医者だってくだらない質問ばかりされれば怒鳴りたくもなります。
しかし重大な連絡とくだらない連絡の境目が医師によって大きく異なるのも事実です。
こういう時に「じゃあ僕が聞いてあげるよ」と言ってくれる若手医師がいると看護師から重宝されるのですが、それは今は置いておきましょう。
現実問題として「よく怒鳴る医者」がいるということです。
考えてみてください。
看護師は一般人よりも医療に詳しいです。
普段から医師と協力し合って治療に当たっています。
一般人よりもはるかに「医師に質問しやすい」立場のはずです。
ところがその看護師たちをしても「聞きたいことが聞けない」医師がいるのです。
そういう現実を踏まえると、「聞きたいことを聞けないのは患者が悪い」などというのが全くの空論であることが分かります。
(2015年1月26日)
(15)
ちょっと質問をしただけですぐ不機嫌になる、場合によっては大声で怒鳴ったりする「怖い医師」の対処法は一つしかありません。
主治医を替えることです。
ただ、ここでよく考えないといけないのは医師が不機嫌になる理由です。
「血圧の薬を飲まなくてはならない」と医者に言われたとします。
「薬は飲みたくないんです、何か他に方法はありませんか?」と訊ねるのは何も問題ありません。
ところが「週刊誌に血圧の薬は飲むなと書いてあったから薬は要りません」と答えたとしたらどうでしょう。
それはつまり「私はあなたよりも週刊誌の方を信じます」ということです。
面と向かって「あんたなんか信用していない」と言ったも同然なのです。
こんなことを言われたら医師でなくても怒ります。
頭痛で医師の診察を受けるとします。
「インターネットで調べたらいろいろ怖い病気が並んでいて心配になった」と言うのは大丈夫です。
ところが「この症状だとくも膜下出血のようだからすぐCTを撮ってくれ」と要求する患者がいたらどうでしょう。
大抵の医者は「どの検査が必要か考えるのは自分だ」と不機嫌になるでしょう、医師の存在理由を根本から否定しているわけですから。
医師が怖い場合、わけがあって怖いこともあるのです。
(2015年1月28日)
(16)
理由があって怖い医者と、理由なく理不尽に怖い医者がいます。
理不尽に怖い医者を見分ける方法はあるでしょうか?
理由があって医師が不機嫌になっている場合、主治医を替えても次の医師も不機嫌になる可能性が大きいです。
病院を替えただけ手間が増えることになります。
検査をやり直すこともありますから体力的経済的負担も余分にかかってきます。
簡単な見分け方があるといいのですが。
実は、あります。
紹介状を頼むのです。
「なかなかよくならないから一度他の病院でも診てもらいたい」と正直に言ってもいいし、それが言いにくければ「いろいろあって通うのが不便になった」という言い方がお薦めです。
そして、それで怒るようならそれは理不尽に怖い医者です。
(2015年1月30日)