健康ディクショナリー2013年

あけましておめでとうございます。
ウイルス性胃腸炎が猛威を奮っておりますが、みなさま、体調は大丈夫でしたでしょうか?

さて、ウイルス性胃腸炎の場合、その原因ウイルスが分かったからといって治療方法が変わるわけではありません。
検査に保険も適用されませんから、当院では「ノロウイルス」の検査はしていませんでした。

ところが食品を扱う業種や、幼児や高齢者と接する業種では、就業にあたって「ノロウイルスに感染していない」証明書が必要なところもあるようです。
その場合は対応いたしますので、ご相談ください。

 

(2013年1月7日)

ピロリ菌の除菌治療の保険適応範囲が広くなりました。

当院の場合、検査が2千円、治療が3千円程度でしょうか(3割負担の場合)。
気になる方はどうぞご相談ください。

 

(2013年3月8日)

ピロリ菌治療で使われるのがランサップという薬です。
実際には3種類の薬の組み合わせです。
このパッケージが1日分です。
ほとんどの場合これを1週間服用すればピロリ菌は退治できます。

どうぞご相談ください。

 

(2013年3月11日)

ピロリ菌の検査料金も、除菌治療の金額も、診療報酬表ではっきりと決められています。

ただし、ピロリ菌の有無だけではなく、現実にピロリ菌がどれほど悪影響を及ぼしているかまで検査した上で初めて治療に取り掛かる病院もあります。
また、その場合にどういう検査をするか、その選択肢も病院や医師によってそれぞれ異なります。
つまり単独の値段は決められているのに、トータルでの負担金額が医療機関によって大きく違うという現実があるわけです。

医療の場合、その追加オーダーが自分にとって必要なものかどうか分かりにくいのが困るところです。
しかし分かりにくいのは皆さんのせいではありません。
説明が足りない医療機関側に問題があります。
高いからといってぼったくりだとは私も思いません。
が、不十分な説明で高い検査を追加するのはぼったくりに等しいと私は思います。

 

(2013年3月18日)

「医者に殺されない47の心得」という本を読みました。

タイトルも刺激的ですが、内容も結構刺激的で面白いです。
あ、「面白い」と書くと誤解されそうですね。
内容自体が面白いのではなく、統計の利用の仕方がずるくておかしいです。

ある治療法が病気に対して有効かどうかは、最低で数百例のデータをもとに判断されます。
100%というものがありえないのは、医療の世界でも日常生活でも同じです。
「試験勉強を頑張った方が、テストでいい点数が取れる」というのは真理です。
時には努力が結果に結びつかない事もあります。
さぼったのに、直前にちらっと見た部分が出題される事もあります。
しかし「頑張った方が点数がいい」という真理自体が揺らぐわけではありません。

医療はこうした統計的真理に基づいて発展してきました。
一方「頑張ったのに点数が悪かった」という事象が存在するのも事実です。
医療の世界では、統計的に処理できない少数の現象は「一例報告」という形で発表されます。
そういう報告が積み上げられて、一定の数をクリアすれば、今後新たな真理が生まれ出てくる可能性もあります。
しかし「一例報告」にとどまる限りは、何の意味も持ちません。
逆に「一例報告」に気を取られて、統計的真理に背を向けるのは医師として間違いであるし、怠慢であるし、犯罪的行為だと思います。

そうした視点からこの本を読むと、

都合のいい統計は使う、
自分の主張が統計と一致しない場合は「一例報告」を用いる、

という手法が徹底されている事に気づかされます。
つまり詐欺的やり口がとってもずるいなあ、と感心させられるのです。

 

(2013年5月15日)

統計の使い方も結構ずるいです。

医療体制や病院の対応への満足度が高い人ほど早死にするという統計結果があるそうです。
そこで彼の導きだした結論はこうです。

「病院によく人ほど早死にする」

彼の頭の中では「満足=よく行く」になっているようです。
きっと「税務署の対応に満足=高額納税者」「嫁姑の関係がうまくいっている=同居している」なのでしょう。
しかし病院も税務署も、行かなくて済むものなら行きたくないところです。
病院に満足している人には、そもそも病院にあまりかかっていない、もしくは健康に対する意識が低い人たちが、かなりの割合で含まれていると思うのです。

この統計から何かを結論づけるのは無理です。
少なくとも普通の感覚の持ち主には。

 

(2013年5月17日)
 
しかしこの著者には立派なところもあります。

肺癌検診は無意味であるという説があります。
検診をおこなっても肺癌死亡率が下がらなかったというのが、その理由です。
だから検診など受けるな、というのがこの著者の主張です。

皮肉ではなく、こういう考え方は素晴らしいです。
私などは検診を受けるのは自分の健康のためなのですが、この著者は「社会全体として肺癌死亡率を下げないから検診を受けない」のだそうです。
自分の健康に気を配るのも、自分が長生きしたいからではなく、日本人の平均寿命を伸ばしたいからなのでしょう。

私が検診を受けるのは、「自分が安心したいから」という理由のためです。
人でなしと言われそうですが、社会全体の肺癌死亡率の事など全く考えておりません。
社会全体としてはどうであっても、個人レベルであれば少しでも早期に発見できれば生存率は上がります。
それに肺の病気は癌だけではありません。
また現時点で異常がなくても、今後何かの異常が発生する可能性はあるわけで、その時に比較しやすいように正常な状態を記録しておくという理由もあります。

行政が費用を投じて肺癌検診をおこなう理由はないのかもしれません。
しかし私たち一人一人に検診の意味があるかどうかは、それとは全く別次元の問題です。

この著者の態度は立派だと思います。
ですが、私たちは自分の健康に関しては、そこまで立派でなくてもいいと思うのです。

 

(2013年5月20日)

癌は放置しろ、というのもまた思い切った提言です。

私も研修医時代に同様のことを考えた事もありました。
つまり、発見された時点で全身に転移している胃癌や大腸癌に対して手術する意味があるのかどうか、という疑問です。

これについては数多くの経験を経て、自分の中でははっきり結論が出ています。
消化管系の癌は可能な限り切除すべきです。
なぜなら消化管系の癌は大きくなると腸を閉塞させ、さらに出血の原因になります。
腫瘍を切除することによって、極端に言えばほんの1回だけでも食事が美味しく食べられるのなら、そのために手術をした方がいいと思います。
また、クオリティ・オブ・ライフなどという言葉を持ち出すまでもなく、吐血はつらいものです。
吐き気に楽もつらいもありませんが、抗癌剤の副作用の吐き気に対して、吐血の吐き気は「吐くべきものがあるから起きている吐き気」です。
制吐剤や鎮痛剤で抑えて解決する問題ではありません。
仮に手術が患者さんの体力を奪うとしても(現実には手術がそれほど体力を奪うことはありませんが)、吐血に苦しむ2か月よりも、吐血のない1か月を、消化器外科医なら提供したいと思うのです。

そういう意味で「癌で死ぬのはそんなにつらいことじゃない」などという考え方を耳にすると、「ああ、この人は胃癌や大腸癌の末期状態を知らないんだ」と思うわけです。

 

(2013年5月22日)

胃腸関係の新薬が続々と登場しています。

便秘や下痢で困っている人は多いです。
いろいろな下剤を試しても、効果があるのは最初だけですぐ効かなくなる人。
通勤電車の中でお腹が痛くなり、駅ごとにトイレに駆け込まなくてはならない人。

困った末に病院に行っても、ほとんどの場合は「病気ではないからこのまま様子を見ましょう」と言われてきたのではないでしょうか。

最近になってこういう状態も病気の一種と考えて、しっかりと治そうという流れになってきました。
もちろん、誰でも一発で効くような特効薬が現れたわけではありません。
しかし以前の治療で期待するような効果が得られなかった方も、もう一度チャレンジしていい時期だと思います。

 

(2013年6月10日)

痔の治療法もどんどん進歩しています。
レーザーや注射による治療や、日帰り手術など。

そうは言っても、レーザーだって注射だって怖いし、日帰りでも手術はいやなものです。

実のところ、当院に来られる方で、薬では治らないレベルの人はせいぜい1割です。
2割の人は病気ですらありません。

手術方法であれこれ悩む前にまず病院にかかってみることをお薦めします。

 

(2013年6月12日)

胃腸炎の季節です。

ひどい嘔吐下痢に対する治療が「OS1ゼリー」の登場でずいぶん変わりました。
最近はTVでコマーシャルも流れているそうなのでご存知の方も多いと思います。
基本的に点滴と同じ成分のゼリーです。
おかげで外来で点滴をする機会がぐっと減りました。

基本的には医師の指示のもとで摂取すべき医薬品の一種ですが、市販もされています。
当院では3個600円でお渡ししています。
夏場を前にお近くのドラッグストアで値段を確認しておくのがいいかもしれません。

 

(2013年6月14日)

40歳以上の方は、症状がなくても一度胃腸の検査はしておいた方がいいと思います。

胃の検査については、多くの場合定期健診に組み込まれていますし、検査自体にさほど抵抗感がないので受診率はそこそこ高いです。
一方大腸の検査は事前の準備が結構大変ですし、何より恥ずかしい。
よほどの自覚症状がなければなかなか検査しようという気にならないのではないでしょうか。

当院では肛門関係で来られた40歳以上の方には全員大腸内視鏡をお薦めしています。
(当院では検査をおこなっていないので、お近くの病院に紹介するという形になります)
肛門の病気が、本来なら受けることもなかった検査を受けるきっかけになったわけです。

検査の結果、大腸に異常のないことが分かって喜ぶ患者さんを見て、私は「大きな安心が得られて、この人にとってはお尻の小さな病気にかかったことはラッキーだったのかもしれない」と思ったりもするのです。

 

(2013年6月17日)

「最近の若い女性は米のとぎ方も知らない!」

かつては手術する以外に治療方法がなかった病気でも、技術の進歩でさまざまな治療法が選べるようになってきました。

それはそれで素晴らしいことだと思います。
問題は手術ができる外科医がどんどん減っていることです。
たとえば胆石は、今ではほとんどが腹腔鏡でおこなわれています。

今はいいのです。
今最前線で「腹腔鏡下胆嚢摘出術」をおこなっているベテラン医師たちは、お腹を切り開いておこなう従来のやり方を、ついこの間までバリバリこなしていた連中ですから。
万が一出血などのトラブルに直面してもあわてることなく開腹して処置できると思うのです。

今から10年後はどうでしょうか。
腹腔鏡下胆嚢摘出術のチームの中に、開腹による胆嚢摘出術の経験がある医師が一人もいない、などという事態が普通になってきます。

よく「最近の若い女性は米のとぎ方も知らない」と嘆く年配の方がおられますが、これは仕方がないことでしょう。
実際、今の世の中、米をとぐ技術よりも、スマホでコピペできるスキルの方が重宝されるように私には思えます。

しかし「最近の若い外科医は開腹もできない」というのは、ただ嘆くだけではすまされない、とても恐ろしい事態だと思うのです。

 

(2013年6月19日)

外科医の「とりあえず切ってみよう」というキャラクターはあまり好きではありません。

しかし最近、切ることにあまりに慎重な外科医が多いような気がします。
出血や膿瘍など、あれこれ考えるよりも早く切ってしまった方がいい事態も、時にあります。
そういう時にも「もうちょっと検査してから結論を出しましょう」という考え方をする外科医が増えてきたように思います。

「切る決断」が以前よりも全体として0.1秒遅くなったような気がします。
きっと好ましい流れなのだ、……と信じています。

 

(2013年6月21日)

検査項目に腫瘍マーカーを組み込む人間ドックが増えてきました。

しかし腫瘍マーカーは本来治療効果の目安であって、癌の早期発見に適した検査ではありません。
自動的に組み込まれているのなら仕方がありませんが、オプションで選択の余地があるのでしたらかかりつけ医に相談することをお薦めします。

遠慮は不要です。
かかりつけ医とはまさにそのためにいるのですから。

 

(2013年7月8日)

たとえば肝臓癌では腫瘍マーカーとしてAFP、PIVKA-II、CEAなどが用いられますが、これら3つの値が全て上昇する肝臓癌はまれです。
全てが正常値であることも決して珍しくありません。

肝臓癌が発見された。
腫瘍マーカーを調べてみるとAFPだけが上昇していて、他のマーカーは正常だった。
癌を切除するとAFPが正常値まで下がった。

この段階で初めて、「この肝臓癌の腫瘍マーカーはAFPである」と結論づけられます。
その後のAFPの経過を追っていくと、2年後に上昇を始めたとします。
その場合には再発の可能性が高いと推測できる……、腫瘍マーカーとはそういう意味合いのものです。

流れ作業的に腫瘍マーカーを調べて、低いから大丈夫、と安心するためのものではありません。

人間ドックの検査項目には、「正常値であれば安心していい」検査と、「正常値であるからといって全く安心できない」検査が混在しているので注意が必要です。

 

(2013年7月10日)

ABC検診という言葉をご存知でしょうか?

ピロリ菌の有無と、胃の粘膜委縮度は血液検査で調べることができます。
ピロリ菌も陽性で、委縮も進んでいる人は胃癌になる可能性が高いのでしっかりと精密検査を受けましょう、という意味の検診です。

誤解している人が多いのですが、ABC検診はあくまでも、「胃癌になりやすい人」、つまり「絶対に精密検査を受けないといけない人」をあぶり出すための検診です。
ABC検診で低リスクと診断されたからといって精密検査を受ける必要がないわけではありません。
そういう意味ではかつての「メタボ検診」の「腹囲」のあり方に似ています。
現在ではメタボリック・シンドロームの定義から「腹囲」は除外されていますが、「絶対にメタボの精密検査を受けないといけない人」をあぶり出すための基準としては非常に有意義だったと思います。

ABC検診そのものは保険適応ではありません。
当院であれば胃カメラと同じくらいの費用がかかります。
それならば胃カメラをしてしまった方が効率的ですし、診断も確実です。

健康診断やドックにABC検診を組み込むのはいい考えです。
しかし消化器専門病院でABC検診を受けるのは、わざわざ病院で腹囲を測定するようなものです。
胃が心配であれば、素直に胃内視鏡検査を受けるのがベストです。

 

(2013年7月12日)
 
「医師が語る本音の話」第2回は、11月1日(金)コープ兵庫で13時半からです。
今回のテーマは「その薬、必要ですか? その代金、必要ですか?」の予定でした。
ですが、その前にちょっと寄り道です。
「医療否定本を切る!」
「医者に殺されない47の心得」や「患者よ、がんと戦うな」などの「医療否定本」が大ヒットしている近藤誠ですが、みなさんからすれば、世間の医師が彼にどうして反論しないのか不思議にお思いではないでしょうか?
反論しないのには理由があるのです。

続きはコープカルチャーで。

 

(2013年10月21日)

しかし近藤誠の気持ちも分からないではありません。
放射線療法はものすごい勢いで進歩していますが、それでもまだ癌治療のファーストチョイスは手術です。
癌細胞が限られた場所にちょっとだけあるのなら、そこを根こそぎ取ってしまうのが一番確実です。
それに、本能的な直観ですが、仮に統計的な成績が同等なら薬や放射線で封じ込めるよりもとりあえず癌細胞を身体からなくしてしまいたい、という気持ちもあります。
実際早期癌であれば、放射線治療が関与するまでもなく手術でほとんど治っています。
大雑把に言うと、全ての癌のうちの半分以上が放射線治療を経ずに完治しています。
つまり彼は、これらの「手術でちゃんと治っている症例」をほとんど見る機会がないまま、癌治療の全てについて語っているわけです。

彼の言葉に、あんこを食べずに鯛焼きを語っているような、そんな的外れ感が禁じえないのはそのせいかもしれません。

 

(2013年10月23日)

そしてもう一つ。

放射線療法の一番の活躍の場は、手術も抗癌剤も効かない癌の治療です。
つまり彼の前に現れる患者の多くは、手術も抗癌剤も効かないから、彼の前にやってきたのです。

彼が「癌には手術も抗癌剤も効かない!」と感じるのはある意味、仕方がないかもしれません。
黒沢映画を見て日本にはまだ侍がいると思いこむ外国人もいるらしいですから。

 

(2013年10月25日)

健康ディクショナリー2012年胃カメラ入門<main>健康ディクショナリー2014年(1)まともな医者が近藤誠に反論しない訳


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