神戸元町ダイアリー2012年(4)

シェークスピアの「ロミオとジュリエット」はあまりにも有名ですが、その割には音楽化作品は多くありません。
その内の一つがチャイコフスキーの幻想序曲「ロメオとジュリエット」です。

曲はまさにチャイコフスキー節で、激しい部分は徹底的に激しく、甘い部分はとことん哀切。
考えてみればシェークスピアの戯曲もかなり荒削りでむき出しの世界ですから、この曲はシェークスピア以上にシェークスピア的と言えるかもしれません。

これが今回の演奏会プログラムの1曲目です。
10月8日(月・祝)16時から大阪シンフォニーホールです。
ぜひどうぞ。

 

(2012年10月1日)

2曲目はディーリアスというイギリスの作曲家の曲です。

オペラ「村のロミオとジュリエット」から、間奏曲「楽園の道」です。
タイトルからは内容を想像するのが難しいです。
「村の」という言葉には素朴でほのぼのとしたイメージがあります。しかしあくまでも「ロメオとジュリエット」です。
牧歌的で悲劇的な物語なのでしょうか。

実際にオペラを聴いてみると、何となく分かってきます。
シェークスピアの若い二人は、ほとばしるエネルギーで因襲的憎悪を乗り越えます。
一方ディーリアスの若い二人は運命に抗いません。
居場所を見つけようとさまよい、逃げ続けて、最後にようやく誰にも邪魔されない楽園を見つけます。
ディーリアスも優しく二人の運命を伴奏します。

静かな決意と、その先にある儚い幸せを描いたのが、この美しい間奏曲です。

 

(2012年10月3日)

プログラム最後の曲はブルックナーの交響曲第4番です。

ブルックナーの交響曲をたとえるのによく「天国的な長さ」という言葉が用いられます。
ゆったりとしたメロディーがいつ果てるともなく流れていく、その悠揚たるさまはまさに天国的と表現したくなります。
実際、この曲を今から30年(!)ほど前にも演奏した事があるのですが、その時にはこの長さを持て余してしまった憶えがあります。
ところが今弾くと、短いのです。
重厚なオルガン音響に身を任せていると、1時間余りがあっという間に過ぎ去っていきます。
時の流れを推し進める力を、全て音エネルギーに変換して空間を埋め尽くすかのような、つまり時間を空間に換算する音楽と言えるかもしれません(かっこいい!)。

ところがこれほど素晴らしいブルックナーですが、自宅で鑑賞するのはかなり難しいです。
まず録音が難しい、それから再生装置で再現するのが難しい、そして昨今の住宅事情のせいで観賞すること自体が難しい。
実演と録音についてはまたいずれ考えたいと思いますが、個人的な印象では「実演でないと味わえない音楽」ナンバー1は、2位以下を大きく引き離して「ブルックナー」だと思います。

8日、シンフォニーホールで実演のブルックナーをぜひどうぞ。

 

(2012年10月5日)

携帯電話の着信音はお年寄りには聞こえにくい、と以前書いた事があります。

コンサート会場などで着信音をいつまでも鳴らし続けているお年寄りが、槍玉に挙げられる事がありますが、これはマナーではなく携帯電話の機能の問題だと思います。
携帯電話での話し声もそうです。

私たちはほとんど無意識に電話機を使っています。
注意してみると、受話器のスピーカーからは相手の声だけではなくて、自分の声も聞こえています。
そして受話器から聞こえてくる自分の声の大きさを基準にして、話す音量を調節している事に気がつきます。
とすると、受話器から聞こえてくるはずの自分の声が聴き取りにくいお年寄りが、携帯に向かって大声でしゃべるのは当然すぎるほど当然なのです。

お年寄りが着信音を放置するのも、大きな声で通話するのも、悪いのは携帯電話製造メーカーの怠慢だと思います。

 

(2012年10月10日)

この間道を歩いていると、すぐ前を女子高生3人組がおしゃべりしながら歩いていました。

「最近何するんにも、「よいしょ」って言ってしまうん」
「私も私も、年寄りみたいでイヤなんやけど」

「でも「よいしょ」というのは自分の身体への呼びかけだから、私はいいことだと思う」

おお、最近の女子高生はかなり哲学的です。

 

(2012年10月12日)

ちょっと前まで自宅で日本映画を観賞するのは大変でした。

セリフが効果音やBGMに埋もれて、よく聴き取れないのです。
よく聞こえないから音量を上げると、次のシーンの爆発音で腰を抜かす事になるし、日本映画にこそ字幕をつけて欲しいとずっと思っていました。

素人目には、セリフの音声トラックのボリュームを調節する事くらい簡単にできそうに思えますが、実際はなかなか難しいそうです。
ハリウッドではダビングを前提として、セリフと状況音を別々に収録しているようですが、日本映画ではいまだに現場の音をそのまま録音するのがよしとされているらしいです。
なるほど、セリフと状況音を同じトラックに録音してしまったら、あとでセリフの音量だけ調節するのは無理です。

一方スタジオでの撮影が主体のテレビドラマでは、「状況音」自体が存在しないので、セリフと状況音は必然的に別撮りになります。
最近少しずつ日本映画でもセリフが普通に聴き取れるようになってきました。
その理由は、テレビドラマの劇場版が増えて、そのノウハウが一般的になってきたからではないでしょうか。

現場一筋の映画人も、あまり肩肘張らず、一度テレビドラマ作りの現場で修業し直した方がいいかもしれません。

 

(2012年10月15日)

考えてみれば、製作費が少ないから、製作時間が足りないから、という理由で私たちはセリフの聴き取れない映画を押しつけられていたわけです。
セリフの聞こえない映画なんて、不良品です。

部品が足りなかったからという理由でブレーキの利かない車を売りつけたり、間に合わなかったからという理由で火の通ってない料理を出したり、他の業種では絶対にあり得ない事を、日本映画界はおこなっていたということになります。
しかも、料金はアメリカ映画と同じだけとっているのにも関わらず、です。

日本映画の衰退の理由を「面白くないから」と説明する人がいますが、それは間違いです。

内容以前に問題があるのでした。

 

(2012年10月17日)


NHK講座がいよいよ第2シーズンに入りました。

担当の方に「第1シーズンの繰り返しでもいいですか?」と訊ねると、「ダメです」との返事。
第1シーズンから引き続き受講して下さる方がおられるからだそうです。

こうなってくると第1シーズンでは危なすぎて話せなかったこの話題や、あの裏話なども引っ張り出さなくてはネタがもちません。
過激になりそうで自分でも怖いです。

第2シーズン2回目の講座は11月27日(火)14:00です。
お問い合わせ、申し込みは0798-22-2119(NHK学園フレンテ西宮オープンスクール)へどうぞ。

 

(2012年10月24日)

今年、インフルエンザワクチンは十分確保できそうです。 
11月下旬から12月上旬にかけての接種がお薦めです。
ご希望の方は11月19日以降にお越しください。 
また都合により11月26日(月)は休診いたします。ご了承ください。

 

(2012年11月5日)

いよいよ大阪フェスティバルホールの完成が近付いてきました。

これで海外のオーケストラやオペラ団体の「関西飛ばし」が少なくなればいいのですが。 
ところで今まで大阪駅からフェスティバルホールに行くには、堂島地下街を突き当たりまで歩いて、いったん地上に出なくてはなりませんでした。
信号も長いし、なぜかコンサートの日は雨の事が多くて、不便でした。
堂島地下街がホールに直結してくれるといいのですが、どうなのでしょう。

 

(2012年11月7日)

地下道と言えば、JR元町駅の西口も不便です。

改札を出て右に曲がると、長い階段を登って地上に出なくてはなりません。

そして、やっと登ったと思ったら信号です。
どうせなら地下のまま車道の下をくぐって、神戸生田中学校のすぐ南側で地上に出るようにすれば信号を待たなくていいのに、と思っていました。
しかしそのつもりで見てみると、道路の下には阪急電車が通っているのでした。
なかなかうまくいかないものです。

 

(2012年11月9日)

地下道で一番不思議なのは、神戸大丸前の地下道です。

あと数メートル延ばせば元町商店街まで届くのに、どうして鯉川筋の手間で止まってしまったのでしょう。
これももしかすると地下には鯉川が流れているからでしょうか?

あるいは大丸と元町商店街の間の交差点の交通量が多いために、掘り返すのが難しいからでしょうか?
考えてみれば、あの交差点を何週間も通行止めにするのは影響が大きそうです。 しかしここは思い切って発想の逆転はどうでしょう。年末にはあの交差点の通行が制限されるイベントがあります。
そうです、ルミナリエ。どうせ車両通行止めするのだから、その間についでに掘り返しちゃえ、というアイデアです。

 

(2012年11月12日)

第2シーズンを迎えたNHK講座ですが、来週27日はその第2回目。 
「健康をこわす健康法」と「少しでも負担を軽く〜病気と病院の経済学」について話す予定です。
この1回分で3回分の受講料の元が取れる、とびっきり役に立つ内容です。 
お問い合わせ、申し込みは0798-22-2119(NHK学園フレンテ西宮オープンスクール)へどうぞ。

 

(2012年11月21日)

先日、神戸マラソンに出場しました。

全く何の根拠もなく、「40キロくらい走れるだろう」と思っていたのですが、本当に何の根拠もありませんでした。
30キロ手前からどうにもこうにも足が前に進まなくなり、残りの10キロちょっとはほとんど歩いてのゴールでした。

それにしても沿道の応援は、本当に励みになりました。
応援してもらえるというのはこんなにも心強いものなのかと、ずっと感じながらの42.195キロでした。

振り返ってみれば、頑張っている人を素直に応援することが最近少なくなってきていました。
頑張っている人を見れば素直に応援できる人になりたいと思います。

と書くと何だか小学生の作文みたいですが、本当にそんな気持ちになった一日なのでした。

 

(2012年12月3日)

マラソンに出場するにあたって一番困ったのは、用具の問題でした。

靴は、トレイルランニング用に昨年買ったものを使うとして、問題はウェアです。
街でランニングしている人たちのスタイルを見ると、腰から膝下までぴしっと引き締めたかっこいいランニングウェアです。
わが家には「それはパジャマか?」みたいなトレパンしかありません。

1週間前にあわててランニングウェア専門店に行ってきました。

フルマラソンに初挑戦すると言うと、お店の人が親切にいろいろ教えてくれました。
一番のお薦めはやはり、腰から足首までサポートしたタイプ、とのことでした。
「お薦め」というよりも、限りなく「絶対必要」というニュアンスでしたが、いかんせん1万7千円と、高価なのです。
結局膝サポーターだけ買って店を出ました。

というわけで本番の格好は、「それはパジャマか?」トレパンに、Tシャツ、それに、それでは寒いかも? ということで羽織った普段着のカッターシャツ、という組み合わせになってしまいました。

神戸マラソンではおしゃれなランナーに「おしゃれランナー賞」が贈られたそうですが、もし「ワーストドレッサー賞」があれば、私が間違いなく受賞していたと思います。

 

(2012年12月5日)

というわけで膝だけのサポーターを着けた状態で40キロ走ったのですが、すごいですね。
全身がくがくにはなりましたが、膝はほとんど痛みませんでした。
お店の人お薦めのウェアを着けていれば、腰も太もももずっと楽だったかもしれません。

さらに驚いたのは靴です。
靴ずれの一つや二つはできるだろうと覚悟してましたが、まったくトラブルなしでした。

素材やスポーツ生理学の進歩の賜物だと思うのですが、感動しました。

1万7千円のウェアを買うかどうかは、また別問題ですが。

 

(2012年12月7日)

先日の選挙では、投票率の低さに驚かされました。

いろいろな解釈が可能だと思いますが、一つ言えるのは、沖縄の人も福島の人も、そんなには怒ってなかったんだ、ということです。
米軍基地や原発を押しつけて申し訳ないと恐縮していたのですが、ほっとしました。

 

(2012年12月21日)

選挙区選挙に最近違和感を感じる自分がいます。

選挙区選出議員は地域を代表して選ばれるのだと思います。
しかし地域を代表するというのがどういうことなのか、実はよく分かっていません。
利益を誘導したり、迷惑施設を拒絶したり、いわゆる「地域エゴ」を代弁するということでしょうか?
当選回数を重ねて党内での立場を固めて、発言力を高めて、ごり押しをする。
私たちが代議士に望んでいるのはそういうことなのでしょうか?
経済的軍事的な強さをかさに着て無理を通そうとする国を見て、私は下品だと感じます。
自分の選んだ代議士にはそんなことをして欲しくないと、私は皮膚感覚的に感じます。

かといって、いかに小選挙区でも立候補者のパーソナリティなど全く分かりません。
広報を通して主張を知ることはできても、その個人に票を投じる意味合いが理解できません。

低い投票率も多くの死票も問題だと思いますが、選挙区制自体に強烈な違和感を感じてしまった今回の選挙でした。

 

(2012年12月26日)

NHK講座第2シーズンが終わりました。

まだまだ続くそうです。
健康や医療について深く考えたい方はどうぞご来聴ください。

松本胃腸科クリニックは12月29日(土)から1月6日(日)まで休診いたします。
年末年始も寒さが厳しそうです。
くれぐれもお身体には気をつけて、よいお年をお迎えください。

 

(2012年12月28日)

神戸元町ダイアリー2012年(3)日本国憲法を読む<main>神戸元町ダイアリー2013年(1)東京五輪決定


海外の長篇小説ベスト100(第52、56、58位の後半)

第52位

バルザック「人間喜劇」(2)

61 「偉人、施療院および民衆」 構想のみ 

62 「ボエームの王」 岩波文庫「サラジーヌ」に収載
ボエームの王と称される無頼の没落貴族のお話。バルザックが賛美する無頼ぶりが現代的な感覚とは相いれないけれども、短いので読みやすい。 

63 「そうとは知らぬ喜劇役者たち」 入手不能 

64 「フランス人のおしゃべりの見本」 構想のみ 

65 「裁判所一見」 構想のみ 

66 「プチ・ブルジョア」 河出6
若くて野心的な弁護士が、恋と出世をものにしようと画策する。
そこにライバルが現れて……、これからという所で中断し、「未完」に終わる。

67 「学者仲間」 構想のみ 

68 「劇場のあるがまま」 構想のみ 

69 「慰めの天使たち」 構想のみ 

70 「恐怖時代の一挿話」 岩波文庫「知られざる傑作」に収載
昨年の権力者が今年のギロチンの犠牲になる、激動の時代のエピソード。
短くて気が利いていて面白いけれども、冒頭のシーンは全く不要。
バルザックはこんな短い話でも結末を考えずに書き始めた、ということがよく分かります。 

71 「歴史と小説」 構想のみ 

72 「暗黒事件」 創元6 河出8
ある有力政治家の誘拐の真相とは。血で血を洗う政争劇。
登場人物の出自については三代前から詳細に語られるのに、政治的信念については「王党派」などの一言で片づけられてしまうのも、バルザックの特徴です。
誰と誰がどのように争っているのかはよく分かるけれども、「何のために」が親身に伝わってこないのも、深い共感を阻む理由かもしれません。

 

(2012年11月19日) 

73 「二人の野心家」 構想のみ 

74 「大使館員」 構想のみ 

75 「大臣の作り方」 構想のみ 

76 「アルシの代議士」 入手不能 

77 「Z・マルカス」 創元1
権謀術数横行するこの世界では、有能な者が引き立てられるとは限らない、というお話。
短いので読みやすいです。 

78 「共和国の兵士たち」 構想のみ 

79 「従軍」 構想のみ 

80 「ヴァンデ叛乱群」 構想のみ 

81 「ふくろう党」 創元社1 河出9
革命の嵐の中で激しく燃え上がり、悲劇的に散っていく、恋。
講談調で、バルザックとしては毛色が変わっている。
これも、ミステリ的語法を取り入れてくれたらもっと面白くなったのに、もどかしい。 

82 「エジプトのフランス人・予言者」 構想のみ 

83 「エジプトのフランス人・パシャ」 構想のみ 

84 「エジプトのフランス人・砂漠の情熱」 水声幻想・怪奇3 岩波「知られざる傑作」
セクシーな豹との幻想的な同棲。
バルザックの描く女性はあまり魅力的ではありません。これを読むと、彼の描写が下手なのではなく、女性をそれほど魅力的に感じていないからだ、ということがよく分かります。

 

(2012年11月28日)

85 「放浪部隊」 構想のみ 

86 「執政親衛隊」 構想のみ 

87 「ウィーン時代」 構想のみ 

88 「宿屋の主人」 構想のみ 

89 「スペインのイギリス兵」 構想のみ 

90 「モスクワ」 構想のみ 

91 「ドレスデンの戦い」 構想のみ 

92 「落伍兵」 構想のみ 

93 「パルチザン」 構想のみ 

94 「巡航艦隊」 構想のみ 

95 「船牢」 構想のみ 

96 「フランス戦線」 構想のみ (2012年11月30日)

97 「最後の戦場」 構想のみ

98 「回教太守」 構想のみ

99 「ラ・ペニシエール城」 構想のみ

100 「アルジェリアの海賊」 構想のみ

101 「農民」 創元18 河出10
農地をめぐる権力争い。
主に貴族や市民を描いてきたバルザックがこの作品では農民を描いた、という批評もあるけれど、農民や農村生活なんて出てきません。

102 「田舎医者」 創元4
医師ベナシスによる農地改革。
現実的で悲観的なバルザックが、この作品ではなぜか空想的で楽観的な社会改革を描きます。

103 「治安判事」 構想のみ

104 「村の司祭」 創元21 河出11
「田舎医者」と同じく、献身者によって村が改革されるお話。
悪くはありませんが、意味不明なミステリ的付け足しが足を引っ張ります。
村の司祭、ほとんど関係ないし。

105 「パリ近郊」 構想のみ

106 「現代のパイドン」 構想のみ

107 「あら皮」 創元3 藤原10 河出12
希望がかなう魔法のあら皮の話。
バルザック版「ドリアン・グレイ」ですが、そう単純には話が運びません。

108 「フランドルのイエス・キリスト」 水声幻想・怪奇3
現代によみがえるキリストの奇跡、という話だと思います。多分。

 

(2012年12月10日)

109 「神と和解したメルモス」 河出14 水声幻想・怪奇3
悪魔に魂を売った主人公は次々と願いをかなえていくが……。
主人公に悪魔との取引をもちかけたのがメルモスで、やっぱり題名のピントはずれ感が否めず。

110 「マッシミルラ・ドーニ」 創元14 水声芸術・狂気2
エミーリオとマッシミルラのプラトニックな恋愛模様。
ロッシーニのオラトリオも登場して興味深いが、人物関係や心理の流れが錯綜して分かりにくい。

111 「知られざる傑作」 河出14 水声芸術・狂気1 岩波文庫「知られざる傑作」
伝説の画家フレンホーハーを巡る、芸術への愛と狂気の物語。
バルザック版「地獄変」。

112 「ガンバラ」 創元14 水声芸術・狂気2
こちらには自称天才音楽家ガンバラが登場。献身的だった妻にも見捨てられるが……。
一応ハッピーエンドらしきものが用意されます。

113 「絶対の探究」 創元6 水声芸術・狂気4
怪しげな科学実験にのめり込む老人と、彼を献身的に支える娘。
老人が健気な娘から徹底的にむしり取ります。

114 「フリト裁判長」 構想のみ

115 「博愛家」 構想のみ

116 「呪われた子」 水声幻想・怪奇3
呪われた子エチエンヌと無垢な少女ガブリエルとの悲恋。
バルザックが書いたもっとも美しい小説かもしれません。

117 「アデュー」 創元22 河出2 水声芸術・狂気2
戦場の暴虐のために狂気に陥ったステファニーが、フィリップの献身により正気を取り戻すが……。
皮肉屋のバルザックが、なぜかこういう騎士道的愛の話が好きだったりするのが面白いところ。

118 「マラナの女たち」 入手不能

119 「徴募兵」 入手不能

120 「エル・ヴェルデュゴ」 水声幻想・怪奇3 岩波文庫「知られざる傑作」
メンダ城主ファニトはなぜ「エル・ヴェルデュゴ(死刑執行者)」と呼ばれるのか。
バルザックさん、ちゃんとラストまで構想を立ててから書き始めた方がいいと思います。

 

(2012年12月12日)

121 「海辺の悲劇」 創元21 水声幻想・怪奇3 岩波文庫「知られざる傑作」
放蕩の限りを尽くす息子に、父親がとった行動とは。
父親を主人公とする形式でもなく、父と子の物語を伝え聞いた旅人を主人公とする形式でもなく、その旅人が知人に宛てて書いた手紙の形式で語られます。
バルザックが好んで採用する回りくどい形式ですが、この形式によって物語の感興が深まっているのかどうかはなはだ疑問。
というか、はっきり言って面倒くさいだけ。

122 「コルネリウス卿」 創元23
密室の盗難事件の犯人とは? 何とルイ十一世が探偵役を演じるミステリ。
と書くと面白そうですが、例によって行き当たりばったりで書かかれているためにせっかくのプロットも生かせず、もったいない出来上がり。

123 「赤い宿屋」 創元10 水声芸術・狂気4
晩餐会の席で語られる30年前の殺人事件の犯人とは。
ミステリ仕立ての作品が続きますね。
その晩餐会の席にたまたま真犯人が同席しているという偶然に、その真犯人の娘がたまたま主人公の恋人だったという偶然が重なってくるともはやミステリ以前に、小説として破綻しているとしか言いようがありませんが。

124 「カルヴァン派の殉教者」 創元23 河出16
「カトリーヌ・ド・メディシス」三部作と題された作品の第一部です。
歴史上、奸女と扱われてきた女君の実像を描く壮大な三部作の幕開け。
第一部ではカルヴァン派の密使となった若者の自己犠牲の話。
登場人物が山のように出てきますが、どうやらバルザックの時代の人々にとってはなじみのキャラクターのようで、人物紹介も不親切です。
ですがストーリーが動き始めればまあまあ面白いです。
ただし、注意したいのはカトリーヌを弁護するバルザックの姿勢です。
カトリーヌはサン・バルテルミの虐殺には関与していなかったという論調ではなく、フランスのためにはその程度の虐殺は仕方なかった、というロジックです。
現代ではそういうのを「奸計」と呼ぶのですが。

125 「リュジェリ兄弟の告白」 創元23 河出16
三部作の第二部。第一部が虐殺の前で終わったので、てっきりその続きかと思ったらここで描かれるのはカトリーヌの晩年です。
しかも母親に殺されるのではないかとおびえる息子の目を通して描かれるカトリーヌ像。
カトリーヌについての偏見をぬぐい去ろうと言う当初の目論見はいずこへ。

126 「二つの夢」 創元23 河出16
三部作の第三部。番外編のような第二部から本筋に戻って真っ当な大団円に向かうかと思いきや、舞台はカトリーヌの死後二百年へ大ジャンプ。
カトリーヌの亡霊が自分の行いを弁明します。
解説書には「三部作を通してカトリーヌの人物像を描き切った」などと書かれていますが、ショパンの魅力が知りたいのに、まず伝記を読まされ、次にドラクロワの描いた肖像画を見せられ、そしてポール・モーリア編曲のワルツを聴かされた、そんな感じです。

127 「新アラベール」 構想のみ

128 「不老長寿の霊薬」 河出15 水声幻想・怪奇3
バルザック版ゾンビ。

129 「ある理念の生涯と冒険」 構想のみ

130 「追放者」 創元3 河出13
パリの裏通りの宿屋に身を寄せる老人の正体とは。
ミステリ的技法がうまくないバルザックにしては読ませます。

131 「ルイ・ランベール」 創元21 河出13
早逝の天才ルイ・ランベールの生涯。
伝記という形式のために、バルザックの主観が少ないためにかえって読みやすいです。

132 「セラフィタ」 河出13
両性具有の天使が降臨して、ありがたいお話を聴かせてくれる。
天使の説教は全く面白くありませんが、SF的設定は多少興味深いです。

 

(2012年12月14日)

133 「教師集団の解剖」 構想のみ

134 「結婚の生理学」 創元2
小説ではなく結婚にまつわるエッセイです。
ユーモアエッセイを狙っているのではないかと推測されますが、訳者か、バルザックか、あるいは両者のユーモアセンスの欠如のために、全然面白くないです。

135 「社会生活の病理学」 新評論社から「風俗のパトロジー」として
「優雅な生活論」「歩き方の理論」「近代興奮剤論」からなります。
ここでもバルザックの卓越したユーモアセンスが発揮されます。
「歩き方」論を書くために、バルザックはたくさんの人の歩く姿を観察しました。
その数、254.5人。
小数点は片足の人の分だそうです。面白すぎて腹の皮がよじれそうです。

136 「美徳論」 構想のみ

137 「十九世紀の究極性について」 構想のみ

以上が「人間喜劇」として作品番号が付けられた作品です。
以下は「人間喜劇」構想以降に書かれた作品群です。

138 「総序」 藤原別2
「人間喜劇」構想の巻頭に書かれた序文。

139 「従兄ベット」 創元19 藤原11、12
嫉妬深いベットの復讐の物語、だったらよかったのですが、ベットが復讐したいのか、したくないのかはっきりせず、最後までどう読んでいいのか分からずじまいでした。

140 「従兄ポンス」 創元20 藤原13
人のいい老人が、細々と蓄えてきた財産をよってたかってむしり取られます。
バルザックが好きな人に訊きたいのですが、こういう話って面白いですか?

141 「実業家」 入手不能

142 「ゴディサール二世」 入手不能

143 「結婚生活の小さな悲惨」 入手不能

144 「現代史の裏面」 創元5 河出7
気高いラ・シャントリ夫人の悲劇的な過去。
人を嫌な気持ちにさせる小説ばかり書いてきたバルザックが、人生の最後にやっと普通のカタルシスを普通に感じさせる普通の小説を書きました。
これで神様も赦して下さるでしょう。

 

(2012年12月17日)

というわけで、気が遠く、頭が変になりそうだったバルザック「人間喜劇」読破プロジェクトもようやく終了です。

せっかくですからバルザックのお薦めベスト3を挙げておきましょう。
「嫌な気持ちになるのも含めて読書の愉しみ」と割り切れる人は、「従兄ポンス」でも「絶対の探究」でも「幻滅」でも、どれから読んでもいいと思います(つまりこれら3作品がワースト3ということです)。

「わざわざ本を読んで嫌な気持ちになんてなりたくない」という人のための「読んでも損をしないバルザックベスト3」です。

長篇の部
第1位「ゴリオ爺さん」、第2位「呪われた子」、第3位「現代史の裏面」
短篇の部
第1位「ピエール・グラスー」、第2位「財布」、第3位「砂漠の情熱」

普通の感覚の人はこの6作品からどうぞ。

 

(2012年12月19日)

「考える人」08年春季号「海外の長篇小説ベスト100」<第52、56、58位の前半<main>第51、53、54、55位


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