第2部第4章(第1巻311〜337ページ)
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ラズミーヒンとゾシーモフとの会話。
会話といってもほとんどラズミーヒンが一方的にしゃべっているだけですが。
このだらだらと続くおしゃべりも読み手をうんざりさせるところです。
何がうんざりといって、とにかく登場人物が多い。
わずか27ページの間にゾシーモフ、ラズミーヒンの伯父、ポルフィーリー、ドゥーシキン、ミコライ、ミトレイ、クリューコフと、これだけの名前が登場します。
しかも今後どれだけ重要な役を担うか一切説明されませんから読み手は全ての名前を均等に頭に入れないといけないのです。
ここで重要なのはただ一点です。
「犯人が現場から脱出できたのはたまたま運が良かったからで、考え抜かれた知能犯罪ではない」
あ、それからもう一点。
優秀な若手医師ゾシーモフ先生のお見立て。
「何を食べさせてもだいじょうぶ(中略)きのことキュウリは、むろんだめですがね、それにまあ、牛肉もだめかな」
牛肉もだめなんだそうです。
(2010年4月12日)
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さて本筋には無関係であるにも関わらずラズミーヒンが長々としゃべり続けなくてはならない作劇上の理由があります。
ラスコーリニコフが意識を失っている間にもいろんな出来事が進行していたのです。
ラスコーリニコフの住まいを探し出そうと警察に行ったラズミーヒンがラスコーリニコフが起こした失神騒動の顛末を聞く。
警察がラスコーリニコフを疑っていることを知った彼はポルフィーリーに相談する。
ポルフィーリーはその話を聞いて、かつて読んだある論文を思い出し、警察とは違う角度からラスコーリニコフを疑い始める。
ポルフィーリーは論文の作者を調べだし、ラスコーリニコフの部屋を捜索する。
おそらくその時にゾシーモフと何らかのトラブルがある。
一方ラズミーヒンはザメートフと親しくなり二日間飲み歩く。
そしてその間ミコライは逃避行を続けていた……。
短い間に様々な出来事が津波のように襲ってくる、「時間目盛のデノミネーション」こそがドストエフスキーの小説の魅力の一つだと思うのですが、主人公が昏倒している間も濃密な時が進み続けています。それゆえのラズミーヒンの長広舌なのですね。
まあ今回は勘弁してあげましょう。
すぐ次の章ではもう一人重要人物が登場します。