神戸元町ダイアリー2006年(3)

2か月前から読んでいた小説をやっと読み終わりました。 
マルセル・プルーストの「失われた時を求めて」。 
とにかく長いので有名な作品です。
実はこれを読むのは二度目なのですが、以前読んだ時は何を書いてあるのかさっぱり分かりませんでした。
一つ一つの言葉の意味は分かるのですが、1ページ、2ページと読み進めていくと「今何の話をしてるんだっけ?」という具合にちんぷんかん状態に陥ってしまうのです。 
この歳で読んでみると何か新たな発見や感動があるかもしれない、そう思って再チャレンジしてみたわけです。 
結果は……、同じでした。やはり長くて長くて退屈で退屈で。
どれくらい退屈かと言うと、「長くて退屈で」という言葉だけ100ページ繰り返したよりももっと退屈、そんな超メガトン級の退屈さでした。 
この小説に費やした時間の元を取るために絶対に2か月は長生きしよう! と節制を誓ってしまう、それがこの小説の唯一の存在価値でしょうか。

 

(2006年5月8日)

小泉首相の任期切れが近づき求心力低下が指摘されています。 
代議士たちには求心力だろうと遠心力だろうと勝手にやってくれればいいのですが、有権者としてはちょっと困った事態です。
小泉首相退任後、自民党には当然大幅な保守揺り返しが起こるだろうし、かといって民主党は「反保守」よりも「反小泉」を選んでしまった手前、革新的政策がしばらく打ち出せそうにありません。
有権者としては政策選択の幅が狭くなってしまうのです。 
小沢代表は小泉ヘッドハンティングでも狙ってみればどうでしょうか。

 

(2006年5月10日)

三島由紀夫に関連した映画を2本観ました。 
まずは「春の雪」。 
三島の遺作である「豊饒の海」4部作の第1作の映画化作品です。
大正時代の華族社会を舞台に、妻夫木聡、竹内結子という旬の役者が瑞々しい演技を見せてくれます。
色彩感豊かな映像もなかなかのもので、たっぷりと大正悲恋絵巻を楽しめます。
ただ、原作では「悲劇」はあくまでも主人公の内面にしか存在しません。
彼の観念と感情の齟齬こそが悲劇そのものなのですが、映画ではその感情を描写しません。
主人公は単なる身勝手なお坊ちゃまになってしまっています。 
映画自体は原作に対してとても誠実に作られているのに、逆にそのために主人公が感情移入を拒むキャラクターになってしまっているという矛盾。
これがこの映画の「悲劇」でしょうか。

 

(2006年5月17日)

もう1本は全集の最終巻として発売された「憂国」です。
自身の短編小説を三島本人が監督、脚本、出演と、何役も務めて映画化したいわば究極の自主制作映画です。
元々隙のない構成の原作を、さらに禁欲的な美術と演出で端正に映像化しています。
わずか30分のこの映画に三島の思いがずっしりと詰まっているわけで、映画の最後では私も思わず落涙してしまいました。 
ところが、見終わった後、ふと思いついて画面を消して再生してみました。 
映画には一切科白がありませんから映像を消すと残るのはBGMだけです。 
そしてここに流れるのがワーグナーの楽劇「トリスタンとイゾルデ」なのです。
全3幕から要所を抜粋し切れ目なく演奏した管弦楽版です。
これがとてもいいのです。音楽だけでもたっぷり泣けるのです。
さっき泣いたのが映画に泣いたのか音楽に泣いたのか分からなくなってきました。 
ところでこの音楽の出所が分かりません。 
フルトヴェングラーの指揮という説もありますが、彼のディスコグラフィーを見る限りこういう録音はなさそうです。
三島も「家にあった古い録音を使った」としか語っていません。誰の演奏なのでしょうか?


「憂国」BGMの音源はこのあと、歌舞伎批評サイト「歌舞伎素人講釈」の吉之助氏や音楽評論家山崎浩太郎氏の研究によってストコフスキー/フィラデルフィア管による「トリスタンとイゾルデ〜Symphonic Synthesis」(36年録音)と判明したようだ。 

 

(2006年5月19日)


ピアニスト、クリスチャン・ツィメルマンのコンサートに行ってきました。 
オープニングはモーツァルトのK.330のソナタ。
端正で、それでいて瑞々しい典雅な曲です。
これをツィメルマンはペダルをたっぷりと効かせて豊かに響かせます。
それでいて指の動きはあくまでも鮮やかで軽やか。
遊び心もいっぱいです。
曲の最後ではルバートをかけて突然急停止、客席ににっこり微笑みかけてから終止和音。 
続くラヴェルも「高雅で感傷的なワルツ」、そのタイトルどおりの素敵な演奏でした。 
そこからあとはショパンが続きます。県立芸術文化センターは大きなホールですがツィメルマンのピアノは客席の隅々までゆとりをもって響き渡り、ホールの広さを感じさせません。
バラードの4番の嵐のような終結部でも完璧なテクニックで一つ一つの音が響きに埋もれることなくはじけます。 
面白かったのは作品24のマズルカです。
ツィメルマンはあまりリズムを強調しないで、その代わりに4曲の性格の違いを浮き彫りにします。
4曲通して聴くとショパンがいかに遠くまで到達したか分かるという趣向です。 
最後はソナタの2番。
有名な「葬送行進曲」など、自由自在に音色を操ってまるでオーケストラを聴いているようでした。 
しかし心の興奮が収まった今になって思い出してみると、彼の演奏の深さからすると少しプログラムが軽かったかもしれません。
バラードの4番もソナタの2番も決して浅い曲ではありませんが、前回でのベートーヴェンやブラームスで聴かれたような深刻さが足りなかったような気もします。 
聴き終わった時にはあれだけ満足していたのに、人間、欲張りなものです。

 

(2006年5月31日)

ペットボトルを捨てる時にはラベルとキャップをはずしますが、ラベルが剥がしにくいメーカーがあるというのは以前も書いたとおりです。
その後各社ともラベルの改良を進めているようです。 
しかしこの間「クリスタルガイザー」にはびっくりしました。
何とラベルが糊付けしてあるのです。全然剥がせません。
それを何とか頑張って剥がして「ペットボトルの日」に捨てに行く……、おっとラベルをそのままで捨てている人がいますね。
そういう時は思わず「勝った」とガッツポーズを作ってしまいます。
一体何に勝ったのやら。

 

(2006年6月2日)

ちょうど1か月かけて19世紀型の長編小説を3作読みました。 
まずはヴィクトル・ユゴーの「レ・ミゼラブル」です。
骨太すぎる力強い構成、全篇にふつふつとたぎるような信念と情熱、それにジャン・ヴァルジャンの力強いキャラクター。
まさに「小説を読んだ!」という気にさせてくれる大作です。
考えてみればこういう剛速球ストライクど真ん中という感じの小説を最後に読んだのはいつだったでしょう。
ずいぶんと久しぶりのような気がします。 
しかしミュージカルの「レ・ミゼラブル」はこれを3時間でやってしまうのですね。
それもすごすぎます。

 

(2006年6月5日)

続いては平野啓一郎の「葬送」です。
フランス革命後期を背景にショパンとドラクロワの交流を描いた長編です。 
この小説はもちろん今世紀になって書かれたものですが、若い芸術家の誇りや苦悩を正攻法に描こうという姿勢がロマン派大河小説を髣髴とさせるので敢えて「19世紀型小説」と呼んでみました。
前半では咀嚼仕切れていない生硬な文章と珍妙な会話文のアンバランスさに苦笑させられますが、後半ではそれもかなり改善されます。
ドラクロワが自ら描いた壁画を見上げるシーン、それからショパンの実演のシーンなどはかなり気合の入った熱筆ぶりでうならせます。 
作品そのものよりもこの若い小説家の成長ぶりが、もしかするとこの作品の最大の見所かもしれません。

 

(2006年6月7日)

3作目はチャールズ・ディケンズの「デイヴィッド・コパフィールド」です。 
ディケンズを読むのは全く初めてだったのですがこういう作風の人だったのですね。
一言で言うと「軽い」です。
「レ・ミゼラブル」のようながっちりとした構成があるわけでもなく、思いついたように次々と奇妙な登場人物が現れ次々と事件を起こしていきます。 
そう、まさに「思いついたように」というのが正直な感想です。
もとは新聞小説だったらしいのですが、毎日毎日読者の反応をうかがってはそれに応えて書き進めていく、そんなディケンズの姿が思い浮かぶようです。

 

(2006年6月9日)

毎日麦茶を作って冷蔵庫で冷やしています。 
冷蔵庫のドリンク入れにちょうどいいサイズなので、1リットルのペットボトルに移し替えているのですが、ボトルがすぐ汚れてしまいます。
これをどうやって洗うのがいいかいろいろ試行錯誤してきました。
卵の殻を使ってみたり、米粒で試してみたり、ペットボトル用の小さなスポンジも買ってみました。
どれももう一つです。 
この間ちょっと思いついて歯ブラシと割り箸を輪ゴムで固定して使ってみました。
これがなかなかいい感じで今までのところベストの洗い心地です。
どうしてこんな簡単な事を今まで思いつかなかったのが不思議です。 
ところでこうやって1日に2リットル近く麦茶を飲んでいますが、健康には何の影響もないようです。
断言します、少なくともダイエット効果はありません。

 

(2006年6月12日)

小川洋子の「博士の愛した数式」を読みました。 
文章の静かさが印象に残る作品です。
物語としてはどうって事ないのですが、文学者の目から見た数学の魅力という題材が目新しくてとても成功していたと思います。 
映画版も評判がいいようです。
こちらも楽しみですね。

 

(2006年6月16日)

「博士の愛した数式」と同時に3冊のミステリを買いました。 
1冊目を読み終えて今2冊目が残り100ページです。
ところがほんの1週間前に買ったのに、最後の3冊目が何だったのか思い出せません。 
さあ、何だったのでしょう? 
今読んでいる本を読み終わった後、3冊目をめくってタイトルを見るのが今からとても楽しみです。
物忘れの効用、とでも言うのでしょうか……。

 

(2006年6月19日)

残りの1冊は東野圭吾の「ゲームの名は誘拐」でした。
結局その日に買ったのは次の通り。 
小川洋子「博士の愛した数式」 
大沢在昌「風化水脈」 
横山秀夫「クライマーズ・ハイ」 
東野圭吾の「ゲームの名は誘拐」 
それぞれ全く違う肌触り。
でもそれぞれずっしりと読み応えのある4冊でした。

 

(2006年6月21日)

サッカーワールドカップもいよいよ決勝トーナメントです。 
ところで以前トルシエ元日本代表監督が「代表選手の世代構成がこれだけ偏っているのは日本だけだ」と不思議がっていました。
確かに前回大会も今回大会も中心選手は1975年〜80年生まれです。
前回は23人中19人が、そして今回は何と21人がこの世代です。 
でもこれは日本人的には不思議でも何でもありません。
彼らは「キャプテン翼」世代なのです。
「キャプテン翼」のアニメを見ては興奮を抑えきれずに近所の公園に飛び出して行った世代。 
80年代以降に有力な選手がいないとよく言われますが、実際は「キャプテン翼」世代がずば抜けていたと言うべきなのでしょう。
彼らも次回大会では30代を迎えて体力は下降線をたどります。
さらに予選リーグ8組のうちアジア代表3チームと、アジア代表5位とプレーオフを争ったトリニダード・トバゴが最下位ですからアジア枠も削られるかもしれません。
次回ワールドカップで日本代表が本大会に進出するのはかなり難しそうです。 
日本としては今から「キャプテン翼」を毎日再放送してもう一度「キャプテン翼世代」を育て上げるしか方法はなさそうです。

 

(2006年6月23日)

タルコフスキー監督の「サクリファイス」という映画があります。 

彼の作品の中では一番好きな作品なのですが、どうしても分からないことがあります。
タルコフスキーはロシア人です。この映画は亡命後の作品でフランスとスウェーデンの共同制作、俳優はおそらくスウェーデン語を話しています。
日本語字幕は清水俊二。
タルコフスキーは多才な人でしょうがスウェーデン語まで堪能だったとは思えないし、清水俊二も英語の翻訳家です。 
一体あの日本語字幕がどういうプロセスを経て訳されたものなのかさっぱり分からないのです。
結構マニアックなファンの多いタルコフスキーですが、彼らがその点をどうして無視しているのか理解に苦しむところです。

 

(2006年6月26日)

と思っていたらこの間古本屋で「サクリファイス」という本を見つけました。 
よくある映画の解説本かと思ったら何と、タルコフスキー自身による「サクリファイス」の原作でした。
タルコフスキーがロシア語で書いた物を鴻(おおとり)英良が訳したものです。
鴻英良の経歴についてはよく分からないのですが、タルコフスキー関連の出版物でよく名前を見かけます。
きっとロシア語に精通している人なのでしょう。 
この原作を読めば映画の字幕を読んで感じたもどかしさを払拭できるはずなのですが、どうでしょうか。

 

(2006年6月28日)

さっそく小説版「サクリファイス」を読んでみました。 
当然と言えば当然なのですが登場人物が語る科白は完全にそのままです。
ストーリーも当然同じ。
わずかにいくつかの場面が削除されたり加えられていますが、驚くほど印象は変わりません。 
映画では後半テンポがアップするように感じるのですが、原作ではテンポアップと言うより雑になったような感じを受けるのが唯一の印象の違いでしょうか。
平面的に過ぎるのです。
このイメージを膨らませてタルコフスキーが映像化したのだから原作が映画に比べて表面的なのは当たり前なのかもしれません。
しかし薄いのです。
原作というより第三者の手になるノヴェライズのような薄っぺらさなのです。 
原作を手にしてなお深まる「サクリファイス」の謎、と言ったところでしょうか。

 

(2006年6月30日)

神戸元町ダイアリー2006年(2)金で買えないものはない<main>神戸元町ダイアリー2006年(4)司馬遼太郎と森鴎外


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