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潤一郎全集あれこれ(57)

次に収められている「嘆きの門」は未完なので、あらすじはありません。

 

ほっ。

 

謎めいた少女に主人公が振り回される第1章は面白いです。

ところが第2章で無理にストーリーを動かそうとして、谷崎は失敗します。

それを挽回しようと第3章で別方向からのアプローチを試みますが、収拾がつかなくなり、とうとう投げ出してしまった……、そんな感じです。

 

〇或る漂泊者の俤(おもかげ)

 

天津租界のまるで欧州の都会のような街を一人の男が歩いていた。歳は五十前後。乞食のような格好だったがその顔立ちにはどことなく気品があった。男は道端の煉瓦に腰を下ろし、パイプを口にくわえて川を見つめた。可動式の万国橋が騒々しい音を立てて回転し始めた。大勢の人々が橋の手前でせき止められた。ようやく回転が終わり人々は橋を渡り始めた。しかし男はその喧噪には目もくれず、川の濁った流れを見続けているのだった。

 

舞台は埃っぽい租界、描かれるのは浮浪者。物語的には何も起こりません。

なのにこの凝縮された小説世界!

書き上げた瞬間の、谷崎の、してやったりという笑顔が思い浮かぶようです。

 

 


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