潤一郎全集あれこれ(59)

○真夏の夜の恋

 

二人の少年が浅草の女優夢子に会いに行きます。二人は恋敵です。

 

つかみはばっちりです。

二人のキャラクターの書き分けも上手い。

 

でも谷崎は続きをなーんにも考えてませんでした。

連載一回目にして未完です。

 

この巻には、他にボードレールの詩と「或る時の日記」が収載されています。


潤一郎全集あれこれ(58)

○天鵞絨(びろうど)の夢

 

上海の大富豪の温夫婦は杭州の別荘に大勢の奴隷を集めて放恣で残虐な生活を恣(ほしいまま)にしていた。たとえば温夫人の阿片部屋。その部屋は池の下に造られていた。夫人は若い男奴隷にかしずかれながら硝子天井を見上げて阿片を楽しんでいた。池では魚の群れと一人の若い女奴隷が泳いでいた。やがて男女の奴隷は、硝子越しに意識し合うようになった。夫人は女に毒を盛った。少女は夫人と少年が見守る中、水の中で美しい死体となるのだった。

 

この小説は本当は未完作です。

 

本来ならばこのあと温夫婦の裁判や、冒頭に登場した謎の美少女の正体が語られるはずですが、谷崎はここで飽きてしまったようです。

ですが、伏線が回収されない小説は山のようにあります。

一応最後にはとってつけたようなエンディングもあります。

そこで一応完結作として扱い、あらすじをつけてあげました(なぜか上から目線)。

 

 

とはいえ、フォーカスを「私と謎の少女」に合わせるのか、それとも「美少女の美しい死」に合わせるのかによって、あらすじもがらりと変わってきます。

「私が杭州を旅していた時……」で始まるあらすじがあっても不思議ではありません。

 

その感性は多少不思議ですが。


シベリウス「タピオラ」曲目解説

タピオラという缶詰をご存知でしょうか。

 

あまりの悪臭のために飛行機への持ち込みを禁じられている発酵食品です。

船便でしか輸入できないために日本で食べるのは非常に難しく、幻の缶詰と呼ばれています。

フィンランドの大作曲家シベリウスがこの缶詰のための曲を書いているので紹介しましょう。

 

 

00:00 曲は、北欧バルト海の波のうねりから始まります。凍てついた海の底でも生命は息吹いています。

00:47 ニシンの産卵の様子です。オスの放精によって海が真っ白に染まります。

01:22 受精卵はゆっくりと成長して孵化の時を待ちます。

03:57 おびただしい数の卵が一つ、また一つ孵(かえ)っていきます。

05:28 若いニシンたちが広大な海に向かって旅立っていきます。

07:00 未明の漁港を漁船群が出帆します。徐々に夜が明けていきます。

07:54 漁が始まります。網の中でぴちぴちとはねるニシンたち。

08:47 缶詰作業です。海で育まれた命が、缶の中に封じ込まれます。

11:40 ニシンは魚としての生涯を終えました。しかしそれは同時に、もう一つの偉大な生命活動の始まりでもありました。

12:58 発酵活動が始まりました。

13:27 悪臭成分が生まれていきます。高弦の細かな動きはアンモニアを、低弦はアセトアルデヒドを、木管は酢酸エチルを表しています。

15:18 さらに強力な硫化水素やピリジンが発生します。

16:10 いよいよ開缶の時を迎えます。作曲家はうっかり狭い部屋で開けてしまいました。部屋中に充満する悪臭成分、作曲家はのた打ち回ります。金管は断末魔を表しています。

18:16 作曲家は美しい幻影を見ながらこときれます。その魂は海に帰って次の世代の命として蘇ることでしょう。

 

(2018年4月1日


潤一郎全集あれこれ(57)

次に収められている「嘆きの門」は未完なので、あらすじはありません。

 

ほっ。

 

謎めいた少女に主人公が振り回される第1章は面白いです。

ところが第2章で無理にストーリーを動かそうとして、谷崎は失敗します。

それを挽回しようと第3章で別方向からのアプローチを試みますが、収拾がつかなくなり、とうとう投げ出してしまった……、そんな感じです。

 

〇或る漂泊者の俤(おもかげ)

 

天津租界のまるで欧州の都会のような街を一人の男が歩いていた。歳は五十前後。乞食のような格好だったがその顔立ちにはどことなく気品があった。男は道端の煉瓦に腰を下ろし、パイプを口にくわえて川を見つめた。可動式の万国橋が騒々しい音を立てて回転し始めた。大勢の人々が橋の手前でせき止められた。ようやく回転が終わり人々は橋を渡り始めた。しかし男はその喧噪には目もくれず、川の濁った流れを見続けているのだった。

 

舞台は埃っぽい租界、描かれるのは浮浪者。物語的には何も起こりません。

なのにこの凝縮された小説世界!

書き上げた瞬間の、谷崎の、してやったりという笑顔が思い浮かぶようです。

 

 


潤一郎全集あれこれ(56)

〇秋風

 

朝起きると私は二階の縁側に出て空を見上げた。塩原温泉はこの日も雨だった。せっかく秋晴れの空を楽しみに湯治旅を長引かせたのに、雨はやむ気配が無かった。交通も滞り新聞が来なくなり、食糧も乏しくなった。妻の妹S子が、何日か遅れてS子の彼Tも来た。やっと雨が上がった。私はS子とTを連れて散歩に出た。歩きながら歌を歌い、温泉に入り、栗を拾った。あけびの実を手で持ったTは言った。「ばかに冷たいもんですね。」

 

これも、読んだ人は分かると思いますが「あらすじ化」超困難作です。

ポイントは、S子の人魚の場面を入れるかどうかです。とても印象的な場面ですから。

ものすごく迷った末に、私は入れませんでした。

単純に、やましさの裏返しです。

 

ちなみに「水島君の挿絵」というのはこんな感じです。

 

 

やはりあらすじに含めるべきだったでしょうか……。


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